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「(500)日のサマー」のサマーの誠実さについて。あるいはセフレの地位に甘んじて苦しんでいる人たちへのメッセージ。

有名すぎる恋愛映画、(500)日のサマー

簡潔に映画のあらすじを紹介すると「主人公のトムが『愛なんか信じていない』『誰かの恋人でいるなんて居心地が悪い』と公言するかわいい女の子、サマーとセフレ関係になり、正式な恋人として付き合ってもらおうと奮闘するも、サマーは前言を撤回せず恋人関係にはなれないと突っぱね続け、ついに関係が破綻して満身創痍のトムの前にスピード結婚を決めたサマーが表れ『運命はあったわ』『トム、あなたが正しかったの』とニコニコ言い放つ」という地獄のような展開です。
地獄のようなと書きましたが、映画の最後にトムへの救いがあって、ハッピーエンディングと言えると思います。
泣けるし笑えるし感動できるし、何より誰かと一生懸命恋愛をしたことのある人ならドップリ感情移入できる素晴らしい作品です。

しかしこの記事ではこの映画がいかに素晴らしいかを説明したいわけではありません。私が書くまでもなく、これだけ有名な映画なのですから素晴らしいレビューはネットに無数に散らばっています。
そうではなく、今回は「セフレとの関係をどうにかしたい、願わくは付き合いたい」と思ってもがいている人たちに、頭からバケツ一杯の水を浴びせて正気に戻すような話を書きたいのです。

この映画は時系列がバラバラになって進行していきます。その演出によって二人の関係の盛り上がり盛り下がりが強調されていて、たとえば(二人が出会ってから)282日目にIKEAで完全に白けた雰囲気でデートをしていたかと思うと、その直後のシーンは34日目と後ろに大きく飛び、同じくIKEAでこちらではまだ楽しそうにはしゃいでいた二人が映し出されます。全く同じ場所でデートしているのに、二人の様子は天と地ほども違うのです。こうして見ている側には、248日間で二人の関係が完全に破綻してしまったことが痛いほど見てとれてしまいます。

映画を一見すると「気まぐれで自分勝手なサマーに一生懸命誠実に尽くすトム」という関係です。サマーは最後にはヘラヘラと気が変わったからとだけ言い、一瞬で他の男と婚約してしまいます。

しかし私は、サマーは二人の関係においては最初から最後までいたって誠実だったのではと思うのです。

サマーの発していたメッセージは明確かつ一貫していて、「私は真剣に付き合う気はない」です。そして「それでもいい?」といつもトムに念を押していました。対してトムは「ああそれでいいよ」と寛容ぶって承諾し続けます。本当は全然よくないのに。
トムはあくまで「ちゃんと付き合いたい」「恋人同士という証明が欲しい」のです。なのに「この関係も楽しいし」「いちいち恋人同士というラベルを貼る必要もないし」と、サマーと一緒にいたいがために彼女に嘘をつき、自分の気持ちにも嘘をつき、最後には騙しきれなくなった自分の気持ちを爆発させサマーとの関係に致命傷を与えてしまいます。

好きな人から「セフレでいよう」と宣告されてしまった側にとれる選択肢は、「セフレとして関係を続ける」か「セフレは嫌だから関係を終わらせる」の二つしかありません。
「セフレとして関係を続けて恋人に昇格できるのを待つ」というのはほとんどの場合で失敗します。
トムが間違ったのはそこです。

サマーの誠実すぎる発言の数々を時系列に沿って並べていきます。

【28日目】

二人が職場のカラオケパーティーに参加した時のパブでの会話です。

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「誰かの彼女でいるっていうのは居心地が悪いの」
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「誰かの何かになるっていうのが、本当に全然しっくりこないの」
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「付き合うのって大変で面倒だし、傷付くし…」
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「分かった。でももし誰かと恋に落ちたとしたら?」
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「まさかそんなの信じてないわよね、でしょ?」
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「愛なんてものないわ、幻想よ。」

帰り際、サマーはトムに好意を抱いていることを伝えます。

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「私のこと…好き?」

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「ああ、もちろん好きだよ。」

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「ただの友達として?」
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「ああ。どうして?」

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「あなたのこと面白いと思って。友達になれるといいなと思ったの。」

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「それでいい?」

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「ああ。僕と君と…ええと、友達になれるといいと思う。」

imageこの表情。嘘ですね。女の子として好きなのに、もうこの時点で「友達として」と念を押されてしまっていて、不本意なくせに安易に承諾しています。

【34日目】

IKEAデートをする二人。人目も憚らずにイチャイチャしている二人ですが、ベッドに横になり見つめあっている時にサマーが二人の今後の関係についてトムに確認をします。

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「言っておきたいんだけど、」

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「私は本当に、」

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「真剣なものは求めてないの。」

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「それでも大丈夫?」

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「ああ」

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「時々こういうことを話すと怒りだしちゃう人がいるから」

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「僕はそうじゃないよ」

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「本当に?」

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「ああ。要するに、カジュアルな関係でいようってことだろ?ゆっくり。」

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「プレッシャーかけないでね」

imageこの顔。また嘘ですね。カジュアルな関係やハッキリしないままズルズルする関係はトムには不本意なわけです。しかしサマーにはそれをきちんと伝えない。しつこく念を押して確認してくるサマーに「それでいいよ」と嘘をついている。

【118日目】

妹にサマーとの関係を説明してアドバイスを求めます。ところでこの妹、あまりにも現実場馴れした成熟ぶりで、映画の中でも少し浮いています。

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「それで、どうしたらいいと思う?」
「彼女に聞けばいい。」
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「分かりきってるでしょ。求めてるのと違う、聞きたくない答えが返ってくるのが怖いんでしょ。」

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「…その答えがここ数ヵ月最高の時間を過ごしてきたっていう夢を壊しちゃうことになるもんね。」

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「ウジウジしないで」

小さな妹からここまでグッサリ言われてしまい、ついにサマーに自分たちの関係を問いただす決心がついたトム。
ドライブデートをしながら話を切り出します。

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「サマー、聞きたいことがあるんだ。」

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「僕たちって何なんだ?」

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「分からないわ」

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「私は楽しいわ。あなたは楽しくないの?」
「ああ、楽しいよ」

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「よかった」

ってそれで終わり?「私は(この関係が)楽しいわ」だけでアッサリ丸め込まれちゃうの?本当はサマーとの関係についていつも悶々と考え込んでいて楽しくないのに?サマーに「よかった」って言われてるけど本当は全然よくないよね?

【259日目】

この日二人はバーに出かけますが、そこでサマーがナンパされ、サマーに冷たく断られたナンパ男がサマーの横にいるトムに喧嘩を売り、その挑発にトムが乗り…バーで乱闘騒ぎを起こしてしまったことで、帰宅したサマーは不機嫌になります。家で喧嘩を始める二人。酔いも手伝い、いよいよトムは曖昧な関係に終止符を打とうと口論を始めます。

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「僕たちって何だ?」

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「ただの友達よ」
「違う!そういう言い方はやめろ!」

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「こんなのは友達に対する扱いじゃない」

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「コピー室でキスしたり、IKEAで手をつないだり…」

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「シャワーしながらセックスしたり?冗談だろ!友達?クソ!」

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「あなたのこと好きよ。ただ付き合いたくないだけなの。」

imageこれにはさすがにトムも目が覚めたのか、ドアを叩きつけ出ていきます。

imageしかし家に帰ってもサマーのことが気になり眠れないトム。連絡がないか気になって携帯電話を確認したり…。そしてサマーも喧嘩のことが気になって眠れない様子です。

image…………そして家までサマーが来てしまいました。

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「あんなことすべきじゃなかった」

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「あんなことって?」
「あなたに怒っちゃったこと」

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「ごめんなさい」

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「いいんだ、分かったよ。」

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「僕たちの関係にラベルを貼る必要なんてないんだ」

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「好きよ」

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「分かったよ」

というわけでトム君、またもやあっけなく丸め込まれました
サマーがしおらしく謝っているのは「これまで曖昧な関係を続けてきたこと」ではなく「今夜ちょっとイライラしちゃったこと」でしかないのに。二人の関係に恋人というラベルを貼りたくて仕方ないはずなのに。なに一つ「オールライト」じゃないのに。
でも結局サマーといたいがためにサマーにも自分の気持ちにも嘘をつき続けることを選んだトム。

【345日目】

どうやらサマーとは破局してしまったらしく、トムはアリソンという女の子とデートをしています。しかし好みではなかったようで、デートの途中で彼女に興味がないことをサクッと伝えてしまいました。そして酒を飲みながら彼女にサマーとの恋愛の顛末をグダグタ語るトム。初デートに出かけた相手にこんな目に遭わされるアリソンがとても可哀想です。

imageみっともなくくだをまくトム。アリソンはこの場であきれて帰っていいようなものですが、いい子だったようで親切にもトムと話をしてくれます。

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「聞いてもいい?」

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「ああ」
「彼女は浮気してなかったのよね?」

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「してない」
「彼女はあなたの弱味につけこんだりしてたわけ?」

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「いいや」

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「それで彼女、はじめから彼氏は欲しくないって言ってたのよね?」

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「ああ」

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「………」

こういうことですね。
つまり最初から最後まで、アリソンの確認した通り(そしてトムも認めた通り)、サマーの態度は一貫していました。
サマーに嘘をつき自分の気持ちを偽って関係を無理やり引っ張ってきたのはトムだったわけです。

【500日目】

それからも色々あり(是非映画を見てください、音楽も演出も最高なので。)結局サマーは他の男性とスピード結婚しましたが、二人は思い出の場所で再会します。この時点ではまだ「500日目」となっているようにトムの中でサマーへの気持ちは続いています。

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「君は誰かの彼女にすらなりたがらなかったのに」

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「今は誰かの妻だ。」

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「まるで理解できる気がしないよ。」

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「全然納得できない。」

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「ただこうなっちゃったの。」

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「だろうけど、何があったんだ?分からない。何がどうなった?」

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「ただ…ある日目が覚めて、それで分かったの。」

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「何が?」

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「あなたといた時にはハッキリ分からなかったことが。」

トム死んじゃうんじゃないかと思いました。
刃が鋭すぎます。さすがにトムもしばし絶句。

でもセフレから本命に昇格できないってこういうことなんですね。
もしくは長年ズルズル付き合った彼氏に結婚してもらえず、泣く泣く結婚を諦めて別れたら(元)彼氏の方は次に作った恋人と交際期間わずかで即ゴールイン、みたいな。

そういうケースで本人に「どうして私じゃダメなのか」「どうしてあの子ならいいのか」と問いただしても無駄です。なぜなら本人ですら「君のことは好きだけど、でもなんかいまいちピンとこないから」としか答えられないだろうから。

サマーの相手がトムよりも顔がよかったのか、お金持ちだったのか、性格がよかったのか、それは分かりません。もしかしたらトムよりずっと冴えない男性なのかもしれません。

ただそういうことは問題ではなくて、単にサマーにとってトムは「付き合って自由を手放す決心がつくほど魅力的な相手ではなかった」というだけなのです。サマーは結婚相手の男性とトムとを同時進行で付き合いつつ比較していたわけはなく、トムだけとデートしている期間にトムを彼氏にしたいと思えなかったのですから。

「今は付き合う気がない」「今は結婚なんて考えられない」というのは、「君といても付き合いたいと思えない」「君と結婚するなんて考えられない」の言い換えです。

この映画が描いているのは、「自分に気持ちのない相手に対して自分の理想を押し付けて相手がいつか変わってくれることを期待する無駄さ」なのではないかと思います。
男女問わず、こういった関係に終止符を打てないため生ける屍状態になっている人は多いです。
「ハッキリ付き合ってもらえない」という時点で、相手の気持ちなんかハッキリ見えちゃってるじゃないですか。
その客観的にはハッキリ見えている相手の気持ちを、自分だけが必死で見えないフリしているだけじゃないですか。

最後に、サマーのことを引きずるトムに対してトムの妹がしたアドバイスをどうぞ。
誰かとの曖昧な関係を絶ち切れずに苦しんでいる人たち全員に届いてほしい言葉です。

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「ねえ、彼女のことを特別だって思ってることは分かるよ。」

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「でも私はそうは思わない。」

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「今はよかったことだけを思い出しちゃってるんだと思う。」